鬼飛(おにとび)ブログ
パラグライダーで飛んでるおっさんの雑記ブログです

御前、大空を舞う。

 その御前はその日、奥さんと二人でエリアにやってきた。




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 老夫婦でタンデムにおいで下さるというのはかなり珍しい。聞くと御前の方は76歳だという。その方のタンデムは僕が担当することになった。

 あいにくその日は風が悪く、三郎ヶ岳ではなく八木でのタンデムになった。僕らはモノラックに乗り、200mにあるテイクオフに上がっていったのだが、それまで奥さんやスタッフと話しをしていた御前は、急に黙ってしまった。

 「緊張しているなあ。」と思った僕の予想は、その後テイクオフで確信に変わった。

 八木のテイクオフはランチャー形式で、単管とアルミの足場で作られた、清水の舞台型ランチャーだ。ランチャーの端っこには基本何もなく、少し下の部分からスタ沈した際の怪我防止用網目ネットがあるだけで、数メートル下まで何もない。また、パラが立ち上がってからの助走距離は数メートルしかなく、風が弱い場合などはダッシュでカバーしつつ、端まで行ってもそのまま駆け抜けて飛んでいくというような、経験豊富なパラパイロットでも立ち上げなどに不安のある人は尻込みをする、そんな魂の震えるテイクオフだ。

 御前はモノラックからゆっくりと降りた後、そのテイクオフからの景色を見て「ひゃー!」と言った。そして、軽口を叩きながら奥さんと二人でテイクオフのランチャー上をウロウロしたが、しかし、決して端っこまで行くことはなかった。

 その後二人の記念撮影をして、僕らはフライトの準備に入った。僕にはタンデムの際に必ず行う一通りの決まりきった説明があるのだが、この日は高齢の方ということもあり、いつもより声を張り、できるだけゆっくりと説明をした。

 御前からは、良くありがちな不安な感じの体の動きや、緊張ゆえのちょっとおかしな質問などはなかった。しかし、それは緊張していないからではなかった。御前はあまりの緊張ゆえ、完全に固まってしまっていたのだった。だから御前は、僕の説明が終わったあとにこう言った。「ワシ、今まで聞いたこと、もう全部忘れてしもうたわ。」・・・と。

 「やっぱりそうやったか。」と僕だけでなく、サポートをしてくれていた校長も思ったに違いない。僕は御前に、「覚えてなくても大丈夫です。とりあえず最初だけ、走ってくださいっていうたら走って下さい。あとは全部空中で、また説明します。」とそう言った。また、校長とアイコンタクトをして、「ほぼサポートで飛ばしてしまいましょう。」というやりとりをした。

 そして僕らは立ち上げをしようとした。校長はチェストを引っ張り、僕は足を前に出す。その瞬間、なんと御前はペタリとその場に座りこんでしまったのだった。

 「そう来たか!」と僕らは思った。「すぐに座ったらダメですよ。最初は走るんですよ。」と、とりあえずは言ったが、もう御前に走ってもらおうとは全く思っていなかった。再度の挑戦においては、再びのアイコンタクトで、「こりゃあもうガビっと引っ張って浮かしてしまってから出るしかないですね。」ということで一致した。

 次の挑戦では作戦通り、そこそこ風が強めの時に校長がガビっと御前を引っ張って早々に浮かし、それを僕が後ろから押しながらテイクオフするという形を取り、うまく御前を飛ばすことができた。

 「ひゃー。」というような声にならないような叫びを上げた御前は、出た直後はかなり怖かったようだが、その後「ああ~、すごい景色やなあ。ワシ、ホンマに空を飛んでるんやなあ。」「キレイやなあ。」と言い、感激の様子だった。

 その後ちょっとした上昇気流に当たったので、軽く何度か360度旋回をすることにした。御前は回りながら、「ああ、そのまま降りていくと思ってたのに、こういう風に曲がったりすることもできるんやなあ・・・。」と言い、「鳥が飛んでいますよ。」と、僕が言ったのを聞いてそれを見て、「鳥はこんな風な景色をいつも見とるんやなあ・・・。鳥も、こんな風に回って・・・、」と言ったところで急に感極まったのだろう、「うううっ、ううっ。」と嗚咽し始めたのだった。

 そうして、「ホンマにありがとう。わし、飛ぶのが夢やったんやけど、その夢を叶えてくれてありがとう。」と泣きながら御前は僕に言ってきたのだった。

 鬼という名をほしいままにする自分は、いたく感激したりするタイプでは全然ないのだが、この御前の嗚咽と感謝の言葉には、「俺の仕事、ここまで感激してもらえるんやなあ。俺、結構ええ仕事してるなあ・・・。」と思ってちょっと感動してしまい、少し目が潤みそうになってしまった。それに堪え、「ワシ、泣き顔になっとるやろな。」という御前と一緒に空中での記念撮影をし、その後数分間フライトをして、無事にランディングした。

 なおランディングにおいても、もちろん御前にはダッシュは難しそうだった。そこで、風が比較的あるのを幸いに、足を上げてもらってのゼロスピードケツランで安全にランディングしてもらい、事なきを得た。

 降りた後の御前は、しばし感動で言葉も動きも失っていたが、再び感謝の言葉を述べ、またも泣きながら僕に握手を求めてきた。「この歳で飛べるなんて夢の様や。ありがとう、ホンマにありがとう。」と言いながら。

 その御前の感動は他のバーズメンバーやスタッフにも伝わり、自然と拍手が起こった。また、女性陣についてはもらい泣きも発生した。その後御前は、「うちのやつも泣きながら降りてくるに違いない。」と言っていたが、その予想は見事に外れ、奥さんは満面の笑みを浮かべながら、「あー!気持ち良かったー。」ととても嬉しそうに降りてきた。それを見た御前は、「お前はもうちょっと感動とかないんか!」と怒っていたが。

 ラストにみんなで記念撮影。御前はまたフライトの感動が蘇ったのか泣き顔になり、「ワシ、写真撮る時、全部泣いてるがな。」と言って笑った。

 時にとても喜んでくれるお客さんがいて、僕らも大変嬉しくなるのだが、今回の御前のように空中で感極まって泣いた人は初めてだった。そして僕らは、そんな風にまで感動してもらったことに大きな喜びを感じるとともに、大きな感謝の気持ちで一杯になった。

 お出で頂きありがとうございました、御前。夢のお手伝いができ、大変光栄でした。よろしければまた是非おいでください。お会いできるのを楽しみに致しております。


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  1. 2015/11/09(月) 23:56:50|
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